About "AT通信"

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NOVEL

「War Dogs」---著[Anly]---画[ちるね]---

目次

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第二項

 どれほど、そうしていただろう。

「五〇〇! …四九九! …四九八!」

 気の遠くなるような時間が経ったような感じもするし、そうでもない感じもする。

 もうずっと繰り返している同じ動き…斧を構え、気を吐き、振り上げ、また戻す。

 始めこそ、数と形を意識していたものの、百を越えたあたりからはそれもない。

 決められた動きを、決められた回数こなす。

 ただそれだけに集中し、他にはなにも考えない。

 単調に、単調に、単調に…。

「…よく飽きねーな?」

「…え?」

 四九〇、四八九。

 横を見ると、いつの間にかフェルが立っていた。

 僕と同じような構えをし、同じような斧を手に。

 けど、僕とは似ても似つかない程の迫力を持って。

「いや、さ! こう、まぁ、素振りってわけだが!」

 フェルもまた、素振りを一つ、二つ、三つ。

 四八八、四八七。

 一振りごとに夜気が舞い、吹き付ける寒さが砕かれては突き抜ける豪音。

 見た目も、聞こえも、心底、重そうなスマッシュだ。

「なんで! 俺まで! つか! なんで! 全員! なんだよ! って話! だ、よ!」

 うんざりした臭いを伴う、フェルの怒声。

 よく見ると、僕らの周りには、同じ新兵仲間のみんなが来ていた。

 誰も彼もがうんざり顔。

 顔色によく似た臭いのまま、みんなして素振りをしている。

 …どこか、マヌケだ。

「あれ…みんな、いつの間に」

 素振りの手を止め、斧を置く。

 ずしりとした重さを、いまさらながらに感じ取った。

 柄を握る手には力がはいらず、気づかなかったけど肩で息をしている。

 深く、深く、息を吸い込む。

 全身に気だるさをまとった鈍い臭い…疲れた、な。

「――あ」

 すとん、と。

 腰が抜けたようにへたり込む。

 地面、冷たいや。

 肩越しにのしかかって来る斧の柄が邪魔だけど、不思議と嫌な気分にならない重さだった。

「あーもーめんどくせぇ、な…!」

 豪腕一閃。

 フェルが猛りを上げ、ひと際大きく斧を唸らせた。

 ただの素振りが、どこかヘヴィスマッシュに思えてしまう。

 …僕なんか、一発でこなごなだろうな。

「ったくよー…っダァ動かすなぁきれーじゃねぇが、これはなんかチげぇ…」

 ドカ、と重い音を鳴らし、フェルが斧を叩き下ろした。

 どれほどの力を加えたのか、斧の先が地面に食い込み、もたれかかるフェルの巨体を支えていた。

「なぁ、クロムよ?」

「…え、あ、な、何?」

 急に名を呼ばれ、どぎまぎする。

 何だろう…とくに、ヤな臭いはしないけども。

「…なにきょどってんだよおめぇ。まぁんなこたどうでもいい。あと何回よ?」

「…え?」

 何を言おうとしているのか分からない。

「素振り、回数、あといくつ」

「あ…四八六、かな」

 素振り一千本のうち、もう半分は終えている。

 あとは疲れがましになってから、残り分をやらないといけないけども…。

「はー…律儀なヤツ」

「え?」

「ふつーそこはおめぇ…てきとーに数えんだろ。なぁ?」

 まったくだ、と周りのみんな。

 聞けば、十ずつ数えていたり、一から十の数え方が飛び飛びだったりもする。

 中には、もう一千を数え終えたヒトもいた。

「失敗のペナとかならまだしも…んなことお構いなし、全員同じ扱いとかありえねぇ」

「みんな、同じ…?」

「ああ。クロム、おめぇだけじゃねぇのよ。オベクラ済ませて、素振りやらされてんの」

 …どうやら、みんな、先生に素振りを命じられたみたいだ。

 僕は失敗したし、自分でもそれが分かってる上に、先生の言い付けだからちゃんとやってるけども。

 みんなは、きっと違うんだろうな。

「あーもうマジでめんどくせぇ…とっとと片そうぜ」

 ぐい、っと。

「あ、痛っ」

 野太いフェルの腕に引き上げられ、無理やり立たされた。

 どこも痛くないのに、口から悲鳴のような声が漏れたのは情けない。

 本当、僕は…。

 わが身の情けなさに、泣きたくなった。

「座んのはいけねぇぜ、クロム。どこから撃たれるかわからねぇ、いつパニられるかもわからねぇ…ゆっくりすんのは死んでからでもいいだろ」

「…う、うん」

 フェルの言葉は、妙な説得力があり。

 座るのは、控えよう…素直にそう思った。

「んっし。そんじゃ俺はあと、…あー、まぁ五〇〇でいいか」

 僕から手を離し、斧を掴むと、素振りに戻るフェル。

 物言いこそ適当だったけど、斧を振るう一手一手には力がこもっている。

 …僕も、負けてられない、かな。

 さっきよりはマシになった手に力を入れ、斧をつかむ。

 疲れがまだ色濃いけども…動けないほどじゃない。

「…四八六! …四八五!」

 一つ、一つの振りをしっかりと。

 ただの素振りだけど、先生が僕に与えてくれた言葉だから、大事にしよう。
 挿絵


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「ノベル-AT通信-」作者と作品一覧

作者
作風
作品
Anry
Anry近影
独自の世界観が特徴。キャラ同士のセリフの掛け合いも面白い。
「Ring of the Kingdom」「War Dogs」他、読みきり1点
ルジェリア
ルジェリア近影
恋愛系が多め。女の子らしい内容が貴方を癒してくれるはずです!
「3 color's」他、読みきり3点
レゴルス
レゴルス近影
ギャグか?ギャグなのか?!本人は至って本気の作品達。BL臭がするのは僕が腐っているからか、、、。
読みきり3点
ディガル
ディガル近影
戦争・戦闘描写が細かい。何度も読み返す価値があるかと。
読みきり「浦波」
カヤ・エリル
カヤ・エリル近影
何気ない日常・会話、その中でふと考えてしまうことってありますよね。そういうお話。
読みきり「それを、覚えているだろうか?」
xxMILKxx
MILK近影
ファンタジー世界への飛び込めるような内容。あと恋の始まりの香りがぷんぷんしてきます。
連載小説「題名の無い物語」

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