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NOVEL

「題名の無い物語」---著[xxMILKxx]---画[オンモラキ]---

目次

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第一項


ストリクタ大陸全土を支配する国家、ゲブランド帝国。
自由帝ライル・ク・ベルダ・ゲブランドが治める、僕の生まれた国だ。
ライル皇帝の人柄に惹かれ、僕は兵に志願することにした。

幾多の戦場を駆け、それなりに名声を挙げてきた。
隊員こそ少ないが、今では部隊を任される身にまでなっている。

「へぇ、花見か。」
「ええ。穴場を見つけたんです。アルヴィ隊長も、次の休暇にでも如何かと思いまして。」

珈琲を淹れながらヒルデガルトが楽しそうに話す。
彼女は僕の補佐をしてくれている。非常に有能な部下…いや、大切な仲間だ。

「他の隊員も誘ったんですよ。でも、自主訓練をすると張り切ってましてね。」
「ほう、それは頼もしい限りだな。」
「あと、デメトリ君も誘ってあるんです。どうせ休暇は部屋でぐうたら過ごしていると思いますし、
少し外の空気を吸わせてやらないと。」
「ははっ、あいつの怠け癖はもう直らんからなぁ。戦場だと頼りになるんだが。」
「もう…少しは厳しくなさって下さいな?でないと他の隊員達に示しがつきませんもの。」

サイフォンのフラスコを軽く掻き混ぜながら、ヒルダはため息混じりに言った。
部屋に満たされた珈琲の香ばしい香りが鼻をくすぐる。

「まあ、私も隊長と同意見なんですけどね。」
「皆そう思ってるさ」

顔を見合わせて笑い合う。

「それで、どうされます?お花見、行かれますか?」
「そうだな。折角だから一緒に行こうか。」
「では、明後日の朝8時には出発しますから、それまでに仕度なさって下さいね。」
「ああ、了解したよ。」

休暇の花見を楽しみに、僕はカップに注がれた珈琲に口を付けた。





僕が待ち合わせ場所のベンチに辿り着いた時、既にそこには二人の姿があっ た。

「やぁ、すまんね。待たせてしまったかな?」
「お早う御座います、隊長。」

ベンチに座っていたヒルダが笑顔で迎えてくれた。

「私達も先程来た所ですから。そんなにお待ちしておりませんよ」
「そうか。なら良かった。…なんだ、そこのヘタレはまだ起きてないのか?」
「おぁよう…ごじゃい、まふ」
「はあ……もう、朝なんですからしゃきっとして下さいな。」

だらけた欠伸をしてヒルダに叱られているのが、怠け副隊長デメトリ。
奴は朝が大の苦手なのだ。
いつだったか、ホルデイン軍との戦争でこいつが寝坊をしたことがあった。
前隊長殿に大目玉を喰らって、流石に懲りたかと思っていたのだが…。
ある意味凄い奴だ、と心底思う。

「そういえばヒルダ。今日の行き先について聞いてなかったんだが」
「あら、そうでしたか?すみません、すっかりお話するのを忘れていましたわ。」
「すぅ…すぅ…」
「寝るな」

ヒルダの拳がデメトリの頭に綺麗にヒットする。
苦痛に歪める彼の表情が視界に映ったが、敢えて僕は抛って置く事にした。

「え…っと。本日はですね、オリオン廃街に参ります。」
「オリオンだって?随分遠いじゃないか。なんだってそんな所にしたんだい?」
「ふふふっ。この前、穴場を見つけたって申し上げましたでしょ?」

ヒルダがくすくす、と悪戯に笑う。

「先の戦争で、偶然見つけたんです。大きな桜の木が沢山在りましたし、
見頃になればきっと美しいでしょうと思いまして。」
「それにしても。なんだ。行くまでに時間が随分と掛かりそうだな。その為の早起きかい?」
「それがですね、ふふっ、私良いものを手に入れまして。」

ヒルダの瞳がきらりと光る。
まずい。僕はとっさにそう思った。

…子供と云うものは、時に残酷である。
一見明るく楽しく遊んでいる様であるが、
その本人の知らぬうちに他人が犠牲になっていると言う事を理解していないのだから。
今のヒルダはまさに、そんな子供の目をしていた。

彼女は部下として、隊長の補佐としては確かに有能である。
短剣の腕も、他の部隊の奴らにひけはとらないだろう。

しかしヒルダには困った癖がある。
収集癖だ。しかも、とても妖しげなものばかりの。

「これ、何だと思います?」
「ドラゴンソウル…?」
「やっぱり、そう見えますでしょう?でもはずれ。これはですね…」

何を思ったのか、ヒルダはその得体の知れない物の蓋を空け、あろうことか内容物をデメトリの口内へ放り込んだ。
あれが僕ではなくて良かったと、本当に思う。

「うげ、げほっ…げほっ!」

デメトリが咳き込む。
今日の彼は本当に災難だな、と考えていると、彼の体が徐々に変化していった。

「ほう…なるほどな」

鋭い爪、青く頑丈そうな鱗。
背に現れるは大きく逞しい翼。
何処から見てもドラゴンである。

「死ななくてもドラゴンになれる薬だそうです。移動用ですから攻撃能力は皆無ですけどね。
これに乗ればオリオンなんて近いですわ。早く行きましょう?」
「おい!俺の人権は無いのか!?俺に意見する時間は無いのかっ!!」
「あら、いつもぐうたらしてるんですから、こういう時ぐらい働いてくださいまし。」

ブツブツと文句を言うデメトリを無視しつつ、ヒルダに促されるまま彼の背に乗る。
…さすがにドラゴンに乗るのは初めての体験だ。

「どうせ乗られるなら綺麗なお姉様に跨がれたいモンだぜ。」
「あら?私は綺麗じゃないと言うのかしら?
つべこべ言わずに早く飛んで下さいな。日が暮れてしまいますわ。」

こうして僕たちはオリオン廃街へと花見へ向かったのだ。


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「ノベル-AT通信-」作者と作品一覧

作者
作風
作品
Anry
Anry近影
独自の世界観が特徴。キャラ同士のセリフの掛け合いも面白い。
「Ring of the Kingdom」「War Dogs」他、読みきり1点
ルジェリア
ルジェリア近影
恋愛系が多め。女の子らしい内容が貴方を癒してくれるはずです!
「3 color's」他、読みきり3点
レゴルス
レゴルス近影
ギャグか?ギャグなのか?!本人は至って本気の作品達。BL臭がするのは僕が腐っているからか、、、。
読みきり3点
ディガル
ディガル近影
戦争・戦闘描写が細かい。何度も読み返す価値があるかと。
読みきり「浦波」
カヤ・エリル
カヤ・エリル近影
何気ない日常・会話、その中でふと考えてしまうことってありますよね。そういうお話。
読みきり「それを、覚えているだろうか?」
xxMILKxx
MILK近影
ファンタジー世界への飛び込めるような内容。あと恋の始まりの香りがぷんぷんしてきます。
連載小説「題名の無い物語」

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